コーヒーと失恋話 連載第10回
冬の訪れを感じる11月半ば、吉祥寺駅から徒歩10分、喧騒を離れた静かな通りに佇む、『喫茶 うろひびこ』を訪れました。
早速、扉をあけてみよう。
店内は、青い壁紙で統一感があり爽やかな雰囲気。なんだか海辺を散歩に来たような気持ちになる。
18歳からバンドでギターボーカルをしたのが音楽活動の起点。バンド解散以降はソロのシンガーソングライターとして弾き語りをしている。お店の店主の傍ら、現在も活動中。
耳心地の良い透き通るような歌声を褒めると、「歌っている時は性格よく見えてるかもね」と照れ笑い。
人生の約半分を歌と共にしているアライさんと人生を軽やかに生きる秘訣について考えてみよう。
元々はバンドがしたかったから、バンド休止後、実はソロは嫌々始めました。25歳くらいから。だけど、一人っ子で人と合わせるのが苦手だったから、案外性にあっていたのかも。1人の方が人と予定を合わせなくていいし、どこでも行けるし。
ライブハウスはもちろん、飲食店とかどこでもやってた。歌、音楽を媒介にしていろんな人と出会えたり、いろんな場所に行けるのが楽しかったですね。
ライブで全国各地に行っていた時も、入り時間とライブ本番までの間に喫茶店によく足を運びました。そこで「今日、何歌おうかなー」って考えたり、「どんなお客さん来るかなー」って想いを巡らせたり。
ずっと音楽中心で、並行してバイトもやっていたんだけど、コロナで働いていた飲食店での仕事がお休みになってしまいました。『喫茶 うろひびこ』を始めたのは、2021年の4月。コロナ禍の時、いい物件がたまたま見つかったのがきっかけです。
喫茶店は、「絶対やりたい!!!」っていうか、「喫茶店、やるのもありだよな〜」って感じで。元々、「夢だった!」って感じではないですね。音楽もお店も、自分の経験が活かせたりすることをやっているだけなんです。
半分、勢いで始めました。コロナ禍だったのでテイクアウトのみにしたり、お客さんを1人だけに制限したり初めの方は色々工夫しながらね。
お客さんが来ない時は暇だったけど、ミシンをやったり、絵を描いたりとか1人で楽観的にやってました。困った時は、困った自分がどうにかしてくれるかなと思っていて重く受け止めずに。
コロナ禍でお客さんが少なかったからって悪い事ばっかりじゃないんです。
その時に「店と客」じゃなくて、「人と人」の関係性になれたお客さんもいるなと思っています。
私は早くから父親を亡くしたりしていて、死んだら何もできないんだな、とよく思っています。
お店を始める時だって、お店がダメでもバイトすれば稼げるからなんとかなるだろうなって。働くことはやろうと思えばどこでもできるから。意外と生活って、ちょっとのお金と健康があればできるからね。
お店の中に青が多くて海みたい? 確かに私自身、海は好きかもしれない。海って我関せずみたいな広さがあるし、潮の満ち引きって人間の心象風景と似てるなって思うんですよね。
うちに来てくれたお客さんには「好きに過ごして」って思いますね(笑)。とにかくボーッとするだけでもいいし。本当に、海辺に来ているような気持ちで自由に過ごしてほしいです。
「ため息つくと幸せが逃げる」っていうけど、別にいいじゃないか、ため息つくくらいって思いますね。
なんかモヤモヤすることってあるじゃないですか。そんなとき、ちょっと一筋の風がフッ吹き込むだけで気分って変わりますよ。別に解決しなくてもいいし、いつも笑っていなくてもいいんですよ。潮が満ちたら引いていくのが自然の摂理だし、いつも同じ気分でいる必要なんてないじゃないですか。
Q1)好きなメニューは?
―潮騒ブレンド
Q2)好きな席は?
―窓際の1人席
Q3)店名の由来は?
―造語を作った
Q4)好きな音楽、本は?
―COWPERS、Naht、Keith Jarrett
Q5)好きな天気と時間帯は?
―小雨/夕日が沈む頃
Q6)好きな色は?
―前は青が好きだったけど、最近はピンク
Q7)吉祥寺の好きなところは?
―良くも悪くも村っぽいところ
Q8)毎日の息抜きは?
―晩御飯食べながらNCIS(海外の連続ドラマ)を見ること。
Q9)憧れの人は?
―多くを語らない、職人気質な人。
お隣にいた寿司屋の大将みたいな。
Q10)これから楽しみなことは?
―犬を飼うこと
“持たない“ためには、自分の中に芯が必要だ。アライさんのお話を聞いてそう思った。
私はどこに行くにも荷物が多めになってしまう。荷物の重さは、突然の風に吹き飛ばされてまうかもと言った不安な気持ちの現れだろう。何かを持つことは、もちろん悪いことではない。だけど、持ちすぎるとそれらは錘となり、自分自身を縛り付けてしまうだろう。
例えどこかに飛ばされてしまっても、そこでどうにかすればいい。そう思えたら荷物は自ずと減っていくかもしれない。しかし、軽やかに生きることは憧れるが誰でもできることではない。
私たちは日々、感情に揺れ動かされ、様々な物事に悩む。手放せないものばかり増えていく。
けれど、それでもいい。悲しいときは、悲しみ、怒るときは怒る、迷うときはとことん迷う。そんなことを繰り返して、もうダメだと思っていても、まあなんとか生きている。そんな一つ一つの積み重ねがきっと自分の中の錘を芯となるお守りに変えていけるはずだ。
喫茶 うろひびこ
東京都武蔵野市吉祥寺東町1―3−3 ユニアス武蔵野 1F
平日12時〜21時
土日祝12時〜18時
定休日 水木、不定休あり
Intragram @kissa_urohibiko
インタビュー&文、写真:モモコグミカンパニー