コーヒーと失恋話 連載第6回

rompercicci

 中野駅から徒歩10分、商店と住宅の混在する雑多な街の一画に佇む、ジャズ喫茶rompercicciは、齊藤さん夫婦で営まれている。

 お店を始めたのは二人が結婚してから5年ほど経ったころ。今は、それから10年ほど経つ。普段は11時から23時までの営業で、3時間ごとに交代で、店番をしているという。
 ゆったりとしたジャズが流れる店内を漂う平和で落ち着いた空気は、齊藤さん夫婦の間からも滲み出ているようだ。

店主の齊藤さん夫妻(左:齊藤外志雄さん 右:晶子さん)

 初めは寡黙な印象があったが、話してみるとシュールな冗談を言うような性格も兼ね備えた夫の外志雄さん。一方、妻の晶子さんは初対面でも人を和ませる素敵な雰囲気を纏いつつも、どこかサッパリした印象がある。そんな、“似た者同士”ではないお二人から、肩肘張らない素敵な日々を過ごすコツを教えてもらおう。

四六時中いられるのは、あんまり向き合いすぎないからかな

 

外志雄さん(以下、外):会社員だったころからジャズ喫茶を始めたいとは思っていましたが、踏ん切りがついた出来事は11年前の地震(東日本大震災)かな。会社員のまま死んじゃうかもしれないと思ったら、今しかないって。丁度その頃いい物件も見つかって。今でも大変なことはあるけど自分で全部決められるし、お店を開いたことは全く後悔してないですよ。地震が起きた時、それぞれの勤務先から、お互いに送ったメッセージが私からは「生きてる」で、妻からは、「(家の積み上げた)CDやばい」だったんです。こんな全然性格が違う二人なんだけど、夫婦になって15年、お店では10年以上も一緒に働けてるのは、んーどうしてだろう?

 

晶子さん(以下、晶):私たち、あまり向き合わないんですよ。 開店当初の度々のバトルを経て、自分の思うように相手を変えることはできない! どうやら本当にお客さんの顔覚えられないらしい! 受け入れました(笑)。家でも二人、全然違うことしてるしね。

 

外:そうそう、会社員時代から夕ご飯も一緒には食べてなかった。これ大事。夕飯を一緒に食べない(笑)! 待ったり、つけ麺欲を我慢したり、お互いに合わせ過ぎる必要はない。


晶:私も最初は、「夕飯の準備はどうかしないで」って言われて驚いたけど、結局はよかった。今はお店をやって家で一緒に夕飯はそもそも無理だけど、居酒屋は好きで休日は一緒に行くね。

 

ちょっと無愛想くらいが気軽

 

晶:居心地の良さを作るために気をつけていること? んー、ほどよい放任かな。でもお行儀悪い人にはちゃんと声をかける。内輪ノリみたいなのって、苦手で。そもそもジャズの音量が大きめで、店内でのおしゃべりは控えてもらっているから、合う人合わない人はっきり分かれるかも。

 
外:無愛想なくらいが寄りやすいんじゃないかな。カウンターもお客さんとあまり目が合わない高さ。私自身も店員さんに気を配られ過ぎるのが嫌なタイプだから。たまに入ってきたお客さんに気がつかないときもあるよ。
 

晶:気づこう(笑)。
 

一人だったら、全然違う人生だった

 

晶:ある程度一人の世界があってばらばらな夫婦なんだけど、一人だったらお店をやることはなかったかも。

 

外:私も。一人だったらダラダラ会社員やってたかもな……。二人の出会い? それは、偶然、レンタルビデオ屋さんで二人とも「ノルディックヒルの恋人」を借りようとして手が触れて……。

 
晶:あ、パターン1。吉祥寺の居酒屋でそれぞれ友達と並んでて、4人で入ると安くなるみたいですよ……というのがパターン2。

 

外:どっちか使ってください。

 
晶:思えば結婚も引っ越しからの成り行きだったなあ。 

 

外:そう、タイミングと成り行き。そんなこと今真剣に婚活とかしてる人には軽々しく言えないけど。

 

晶:今の出会いって、マッチングアプリとかで詳細に相手の条件を絞れたりするんでしょう? それも面白そうだけど、少し肩の力抜いていた方がタイミングに乗りやすいというのはあるかも。

 

外:このお店を始めたのも成り行きなところもあるし、あんまりきっちり決め込まなくったって大丈夫。

 

晶:まあ緻密にやろうとしてもできない質なんです。そこは似ている。

 

ロンパーチッチ店主 齊藤外志雄さん・晶子さんに10の質問

 

Q1)好きなメニューは?
外志雄さん / 晶子さん(以下同)
—ハイネケン / コーヒー

Q2)好きな席は?
—カウンターの一番奥の席(店員から隠れられるから)/ 奥から2つ目のテーブル席(お店の中が見渡せるから)

Q3)好きな天気は?
—晴れ / 雪

Q4)好きな音楽は?
—Neil Young / ピアノトリオ

Q5)好きな色は?
—オレンジ / 青

Q6)お互いの好きなところは?
—私が酔い潰れても財布と携帯をちゃんと守ってくれるところ / なんか面白いところ

Q7)印象に残っているお客さんは?
—ここで書きましたと出来上がった本を持ってきてくれたお客さん / さっき子供が生まれましたと居合わせた人にもふるまい酒をしてくれた普段はクールなお客さん

Q8)使っているスピーカーの特徴は?
—JBLというメーカー、カリフォルニアの西海岸の音色をイメージされたもの。

Q9)お店の名前の由来は?
—よく聞かれるけど、特に意味はない

Q10)中野の魅力は?
—ゆるくて雑多な雰囲気

後記

 成るように成る。頭では漠然と分かっていても、日々あれこれ考えて計算高く過ごしてしまう。しかし、苦労して考えた計算だって現実と上手くかみ合わなくて、結局気疲れで終わってしまう。そんなことありませんか? 私はよくあります……(笑)。
 齊藤さん夫婦のお話を聞いて、将来や今の自分の計算なんてしなくても、素敵な日々は過ごせるのだろうと思った。もっと気楽に、肩ひじ張らずに。
 今や、手を伸ばせば星の数ほどの出会いや選択肢がある中で、ただ流れに身を任せ逆に、「選ばない」という選択肢も考えてみてもいいかもしれない。
 この日はバレンタインデーで、取材中向かいの文房具屋さんからチョコレートの贈り物があった。しかし齊藤さん夫婦の方は、定休日だからと特に用意していなかったようだ。
 晶子さんは「どうしよう。こんな高そうなまあでも、今からこれに見合ったもの買えるから買っとかなくてよかった」と方向転換。この日、この日は定休日で、二人はこの後一緒に居酒屋に行こうと計画しているようだったが、その前に一緒にお返しのチョコレートを買いに行こうと話していた。
 夕飯は一緒に食べなくても、休日には二人で居酒屋に飲みに行く。途中で良いお返しのチョコが見つかったらいいけど、見つからなくてもそれでもいい。ホワイトデーもあるわけだしね。
 そんな“ゆるい”お二人は今日も素敵な一日を過ごすことだろう。

rompercicci(ロンパーチッチ)
東京都中野区新井1-30-6 第一三富ビル1F
11:00~23:00 
定休日 月曜
rompercicci
instagram @rompercicci
twitter @rompercicci

インタビュー&文、写真:モモコグミカンパニー