コーヒーと失恋話 連載第7回
連載第7回目は、ロンパーチッチの店主夫婦に「雨の日の夜、偶然2人でお店に入ったらとても素敵だった」という理由でおススメしていただいた笹塚の隠れ家的カフェに訪れた。
地図で住所をしっかり確認していたのに、私は一度お店を通り過ぎてしまった。
草木の生い茂った店先は、お店自体も包み込んでしまいそうな勢いだ。
やっとお店の入り口を見つけると扉には『3日間お休み』の張り紙。
後日、改めて伺い店主の加藤さんにどうして3日間のお休みだったのかと聞くと、趣味の山登りに行っていたという。
取材のお願いをすると、「いいけど、俺変わり者ですよ」と一言。それに対し「私もモモコグミカンパニーって変わった名前なのでお互い様ですよ」と自虐気味に返すと加藤さんは少しも可笑しそうな顔をしなかった。そんな加藤さんの様子からは、なにかと比べようのないぶれない軸のようなものを感じることができた。
長年ひとりでお店を営み、よく思い立ってひとりで自由に遠出をする。
ひとりでも大丈夫だと思えるのはどうしてか。自分軸をたいせつにする生き方とは?
緑に覆われた店内に身を潜め、オレンジのレトロな照明の下でしっとりと語り合う。
この店は40年前から純喫茶だったんだけど、30歳のときにこの場所を見つけてお店を始めてから11年続けているんだ。
当時、前職の飲食店を辞めてから、お店を始めたいと思ってずっといい場所を探していたんだけど、なかなか見つからなくて一旦実家に戻ってボーっとしていた。そうしたら、ある日、偶然この場所を友人が教えてくれたんだよ。ラッキーだったね。ここは正式に貸しにだしてなかったから不動産にでてなかったんだよ。そりゃ探してもみつからないよね。
それからすぐに迷いもなくこの店を始めたよ。最初の頃は、友達とかが来てゆっくり過ごしてもらえればいいな、くらいに考えていたけど、今思うと結局自分が居心地のいい場所、自分の居場所をつくりたかったのかもしれないな。
店の外の植物は全部自分で植えたものなんだ。全部、実のなる木だよ。今は、サクランボとか、プルーンとかがある。外は歩道だから、切ったりしないといけないんだけど、本当はもっと生い茂らせて隠れたいんだよね。東京にいない感じがするでしょ。
あと、お客さんもホイホイ寄せ付けないようにね。あんまり色んな人に見つかりすぎるのもどうかと思うから。看板も主張しすぎないようにしてる。この店は見える人と見えない人がいるみたい。だけど、隠れてても見つけてくれる人がいればいいんだ。見える人には見える。それでいい。
コロナ前までは朝から晩まで働いていて、自分の食事だってままならないこともあったよ。だけど、コロナ禍になってから自分のペースを優先するようになったんだ。辛い状況になると、もっと頑張らないと、とか思う人が多いかもしれないけど、俺はその逆の考えになった。風向きがよくないときはいくらもがいても仕方ない。長い目でみるのがいいよ。まじめにやって上手くいかなかったら落ち込むけど、頑張りすぎず粘りすぎずの方が案外うまくいかなくたって暗くならずに済むから。我慢ばかりはよくない。仕事を休むことに罪悪感なんて感じなくていいんだ。
趣味の山登りも仕事のためなんて思ってないよ、自分の好きでただやってるだけ。今の自分は今しかいないから今、自分の好きな場所にいくべきだ。身体が動くうちにね。
Q1)お店の名前の由来は?
—天パだから学生の時「モシャ」あだ名をつけられたことがあって気に入ったから。
Q2)好きなメニューは?
—ランチのタコライス。カフェメニューもランチのご飯も豊富で全て手作り。
Q3オススメの席は?
—換気扇の近くの席。隠れられるから。
Q4)好きな天気は?
—雨も雷も台風も好き。嫌いな天気はないね。
Q5)好きな色は?
—青
Q6)好きな音楽は?
—Cocco
Q7)好きな時間帯は?
—閉店後の店内でひとりご飯を食べてるとき
Q8)休日は何をしてますか?
—趣味の山登り、日本の百名山を制覇するのが目標
Q9)子供のころの夢は?
—なかったな。
Q10)お店のこだわり
—お店にある本や流れている音楽は全てお客さんが持ってきたもの。意外とお客さん参加型のお店かもしれないね。
「どこか遠くに行きたい」
別に特定の行きたい場所があるわけではない。ただ、ここではないどこか。
もしかしたら、あなたも思ったことがあるかもしれない。
けれど、自分が本当に行きたい場所が分かっている人はどれくらいいるのだろうか。
毎日をせわしなく過ごしていると、気づけばどんどん荷物ばかり多くなっていく。しかしそれは、本当に自分が欲しくて手に入れたものだろうか。みんなが持っているから、誰かとの競争に打ち勝つため、人から押し付けられてしまったもの。そんなものも中にはあるだろう。
「遠くに行きたい」と漠然と思うのは、今いる場所から物理的にどこかに行きたいからではなく、そんな日々蓄積されてしまった自分の中の捨てられない荷物から離れたいからなのかもしれない。しかし、それらを手放すのは勇気がいることだ。だから私たちはそれらを捨てる代わりに「どこか遠くに行きたい」という言葉に今日も想いを馳せている。
行きたい場所がわからなければ、見たい風景が分からなければそれを実際目の当たりにすることも難しい。自分の好きなように生きるのには、まずは自分の好きな生き方を知ることから始まるのだろう。そしてそれは、足並み揃えたレースの最中では見つからない可能性もある。すべてを手放さなくてもいい、ただ一時的にボーっとして視点を変えてみるだけでもいい。
そうすると、ほら。遠くの手の届かない理想郷は、ただ見過ごしてしまっているだけで案外近くに見つかるかもしれない。
mosha café(モシャカフェ)
東京都渋谷区幡ヶ谷3-37-10
不定休
現在はランチタイムメインで営業中(11時30分-15時位)
喫煙可
インタビュー&文、写真:モモコグミカンパニー